【違法コピーが猖獗(しょうけつ)を極めている昨今に言及して】

デジタルオーディオの普及が色々な方面に波紋を投げかけている。数年前、音楽CDをパソコンを使ってコピーすることで全く劣化のない複製物が出来るので音楽業界に衝撃が走った。ある音楽メーカーは音楽CD自体にコピーガード機能を付け複製出来ないようにしたが、パソコンなどで普通に再生が出来ないなどの問題も発生し、あまり普及していない。
CD売上が100万枚を突破するミリオンセラーと呼ばれるものは1996年の23作品を最後に年々減り続けている2004年のそれは「オレンジレンジ」の「花」ただ一作品だったらしい。多くの有識者と呼ばれる人々は異口同音に前述のパソコンでのCDの違法コピーを原因に挙げているようだ。
時は移って、今度は完全にメディア自体が存在しない、デジタルオーディオだ。ネット配信される音楽である。今までのCDなどより安価で入手出来るが先のCDなどの教訓からコピー機能を最初から念頭に置いて規格作りをしていたので色々とその辺りのガードは厳しい。パソコンへダウンロードした楽曲はポータブルメディアなどへ移して(これも立派なコピーだが)聞くことは出来るが一度コピーすると他へのコピーは出来ない。
しかし今の時代、どんなコピーガードを付けようと、それを掻い潜ってコピー出来るツールが出てくることは言わずもがなである。

私が那古野市の専門学校に通いだしたころ、「黎紅堂(れいこうどう)」という名称の貸しレコード店がオープンした。どっかの大学生が起したビジネスだったと思う。(ネット検索の結果「立教大学の学生」だそうだ)そのころ実家から近鉄で那古野まで毎日通学していたが頻繁に「黎紅堂」(確か金山にあった)を訪れて借りた記憶がある。
一度通学電車の網棚に借りたレコードを置いたまま下車したのを改札を出てから気付き、駅員に懇願したところ「1時間ほどで折り返してくるから、運が良ければそのまま戻ってくるかもー」と言われ、駅前で時間を潰してその電車を待った。果たして同一車両の同網棚の上には…私が置いたままの状態でそれは鎮座していた。

閑話休題、そのころも違法コピーという問題はあったはずである。ウォークマンは既にこのころ普及していた。音質的に勿論問題はあった。特にピアノ音楽などを聴くとワウフラッターの値が気になったものである。回転ムラである。しかしウォークマンクラシック音楽を聞く人は稀であろう、多くはポピュラー音楽である、そのころでも軽く音楽を聴くには充分な出来であったのではないだろうか。そのころのコンパクトカセットをメディアにしたオーディオの進歩(音質面)は目を見張るものがあった。勿論今を比べたら雲泥の差であることは明らかだがー。
人間の基本的に持ち合わせている能力は視覚とその他では大きく違う。つまり分解能の違いである。目で見る画像は拡大すればするほど、つまり単純に近づけば近づくほど分解能は上がる。細い2本の線が接近していた場合遠くで見ると一本に見えるが近づけは2本であることが分かる。では耳は如何だろう。小さな音は大きくすれば聞き取れるが、人間が聞き取れる音の範囲は決まっていて、一般的に20Hzから15,000Hzだと言われている。ダイナミックレンジ(小さい音と大きな音の範囲)決まっているだろう。まだまだ音についての記録の方法も技術革新は続くのだろうが、画像と違って既に人間の分解能に達しているのではないだろうか。その他聴覚や触覚、嗅覚などもそうであろう。視覚だけが特異と言える。多少話しが逸れたが、結局は20年ほど前のオーディオカセットの録音状態で大部分の人は音質的に満足していたのではないかと思うわけである。

あのころ誰もが、貸しレコード店でLPを借りてきてカセットテープに録音して、家であるいはウォークマンなどで野外に持ち出して音楽を楽しんでいた。私も裕に100本を超えるカセットテープを保有していたし、知人など借りてきたレコードを必ず2本のテープに録音していた。一本は聞くためでもう一本は保管用である。この頃から既に違法コピーが猖獗を極めていたはずであったと想像できるわけである。

であると仮定するとCDの売上などの落ち込みの要因は何か、多くのミュージシャンは現にCDの売上の減少による収入減を問題視しているようである。DVDの海賊版も同じである。ミュージシャンや映画などのクリエータと言われる人々の著作権が度外視され、その人達にそれに見合う対価が還元されないのである。

そろそろ私の意見を述べよう。

要はネットを通じて不特定多数の人同士が物(情報も含めて)を交換することが容易に出来る事が原因なのであって、デジタルメディアの発達自体が今日の違法コピーの要因では無いのではないか。そうテープレコーダが普及し、複製物がオリジナルとそれ程遜色ない形で作れるようになってから既に四半世紀になる。これまでは特に違法コピーがこれほど社会問題してはいなかった。しかしこの10年ほどであろうかインターネットの普及と同時に違法コピーが蔓延している。従来の違法コピーは友人、知人間でレコードをテープにコピーする(あるいは販売していたかもしれない)など、その数は多くて数十程度であろう。しかし今は複製してネットにUPすれば、それこそ不特定多数の誰もがそれをダウンロードして複製物を使う。違法と分かっていても容易に出来てしまうので安易にしてしまう。それが現在の現象だ。利便性の高いツールはどうしても両刃の剣となる。