完全密室殺人事件?!

【今回のコラムはフィクションです】

「以前(一ヶ月ほど前)に連載?したものを再掲載です\m(_ _)m〜続けて読みたいという要望(?!)にお応えして〜」

ミステリィ(ミステリー)小説によくある「タイトル」になってしまって恐縮だが、最後の「?!」に普通(!?)の密室殺人とは異なる奇妙さを表していることを最初にお伝えしておく。

−1−

被害者の名前はN君、N君はまだ小学生であった、しばらく彼のことをN君と呼ぶことにする。何故、本名を出さないかは、今は言えない。本名を言うことでこの話の面白さが半減してしまうからだ。

事件は友人からの電話をN君に取次ぐため、N君の母親が2階の部屋に向かった時に起こった。いや実際に起こったのはこの時刻より前(時間的に過去)であろう。

「Nちゃん、○○○ちゃんから電話よ〜降りていらっしゃ〜い」母親は最初、階段の下からN君を呼んだ。返事の代わりに金槌で何かを壁に打ち付けるような音が聞こえた。「Nちゃん何をしてるの?電話よ」母親は階段を上りながら呼びつづけた。

部屋の前で再度「Nちゃん、○○○ちゃんから電話よ、何してるの?」呼びかけたが、返事は無い。中でガタゴトと机の引出しを開け閉めするような音がしたあとは物音ひとつしなくなった。

母親はもう一度、呼びかけたが返事がないので、引き戸に手を掛けた。しかし開かない、引き戸なのでカギはない、しかし開かない。再度、戸を叩きながらN君を呼んだ。誰かとケンカをして泣きながら帰ってきたときなど、「ほっといて」と言って母親の話を聞かなかったりする事はあったが戸を開けずに黙り込むことは今までに一度も無かった。母親は急に心配になり、激しく引き戸を何度も叩いた「ドン、ドン・・・」家中に聞こえるぐらいの音である、父親はその音に驚き、階段の下から呼びかけた。

「どうした?受話器上がったままだぞ〜」

「それどころじゃないの、Nちゃんの部屋が開かないの」

父親は母親の慌てぶりが多少気になり、電話を代わりに出てあとで掛け直す旨を伝えて切った。

「本当に中に居るのか?どっかへ出掛けたんじゃないのか?」階段を上りながら、父親は母親に声を掛けた。

「でもさっきまで物音がしてたんですよ、引き出しの開け閉めする音も」

父親は引き戸に手を掛けた、びくともしない、引き戸全体が接着剤で固められたか、釘で打ち付けられたみたいだ、父親はそう思いそのことを口にした。

「そう言えば金槌で打ち付けるような音がしていました」母親は答えた。

「何でそんな事をしたんだ?、窓から外に出たのかな?ちょっと見てくる」父親はそう言い残して玄関から庭に出た。下から見上げた様子では窓もしっかりと締まってる。念のために、庭にある物置から梯子を出しN君の部屋に掛け梯子を上った、やはり窓はしっかり締まっておりカギも掛かっている。

N君の部屋の窓は木枠のガラス窓だ。カギはネジ式の内側から掛ける方式で、内側から押しながら捻り込むものであった。当然窓から出て後からカギを掛ける事は出来ない。

もう一度父親はN君の部屋の前に戻った、母親は部屋の前の廊下にしゃがみ込んでいた。

「外に行った様子はないよ、窓にはしっかりカギが掛かっていた」「仕方ない壊そう」父親は倉庫から持ってきた釘抜きを見せた。

引き戸の隙間に釘抜きを差込み、てこの力を利用して隙間を少しずつ広げていった。「メリメリッ」とベニヤ板の合板が剥れるように少しずつ引き戸は壊されていく、しかしやはり内側から釘で引き戸を固定しその上から接着剤で隙間を埋めたようで、引き戸はそう簡単には開かず、結局引き戸全体の枠組みを残してベニヤ板が剥れた。

丁度「日」の字に枠組みだけ残り、部屋を見渡す事が出来た。

「あっ」母親は小さく悲鳴をあげた。

畳の上には明らかに血痕と思われる赤い線が付いていた。引きずられたあとであり、その方向に目を向けると、そこには胸から腹にかけ自分の血で真っ赤になったN君が横たわっていた。

−2−

警察が来たのは、父親の110番から15分ほどしてからだった。

N家の門扉に黄色いテープ状のロープが張られ、警官や刑事それに鑑識と思われる、ジャンパー姿の人が大勢やって来た。

一通りの確認が行なわれて、N君の両親は死体の確認を行なった。間違いなくN君であった。母親は泣き崩れその横から父親が肩を抱くように支えていた。

「どうしてこんな事に・・・」父親は呟いた。

2人の刑事が現場検証のため、両親を一階の部屋で休ませ、引き続き調査に戻ったとき次の事件は起きた。それはほんの一瞬の出来事であった。刑事2名は両親と一緒に一階に下りたので現場を離れた。あと2名の鑑識は1名が窓ガラス指紋採取、もう1名は机の指紋を採取していた。

警官が2名居たが両名とも部屋への部外者の出入りをチェックする目的で配置されていたので部屋の出入り口前に部屋とは反対方向に向かって立っていた、あと2名警官が居たが彼らは玄関で部外者の出入りをチェックしていた。

遺体が現場から消えたのである、司法解剖のため遺体は警察病院に運ぶことになっており、青いシートが被せられていた。勿論シートをめくった後はあったが誰もこの部屋には出入りしていないし、窓ガラスも事件の時のまま、カギの掛かった状態でしっかり締まっていた。

ここで事件現場のN家の見取り図を紹介しておこう、N家は昭和40年代に建てられた木造モルタル作りの二階建て家屋である。家の周りはブロック塀で囲まれ、門扉は鉄製だが、カギはなく内側にカンヌキ状に鉄棒を差し込んで留めるだけのものである。要するに塀の隙間から手を通せば外側からでも簡単に外すことができる。

東に面した玄関は格子戸風のガラスの2枚組引き戸で、N君の部屋の窓と同じようにネジ状のカギを何度も押しながら捻り込むものある、ただし玄関は外からカギを差込み押し込みながら捻り込むことで外からも施錠できる構造である。玄関を入ると2畳ぐらいの土間があり左側に作り付けの下駄箱、その上にはキジの剥製が置いてあった。

玄関を上がると左側に2階へ上がる階段があり、玄関から真直ぐ進むと右側(方角は北になる)には台所兼食堂がありその奥に洗面所と浴室がある。この部屋も全て引き戸であり洗面所以外に施錠設備は無い。

廊下を面して反対側、つまり玄関から入ると左手に和室が二部屋並んでいた。廊下に面する側も二つの部屋を仕切るものも全て襖であった。当然施錠は出来ない。和室二部屋の南側は障子の引き戸になっておりその外側に小さな縁側がありその外にガラス戸がある。このガラス戸は改築しサッシのガラス戸になっていた。ガラス戸は床から天井までありガラスは上下2枚に別れ下の部分はすりガラスになっていた。

2階の見取り図は次のようである。玄関から上る階段は数段ですぐに右に折れ一階の廊下と同じ方向に上る形になる。2階まで上りきったすぐ左側にN君の部屋はある、出入り口は合板で作られた引き戸である。2階にはあと一部屋、廊下の突き当たりにあるが、最近は納戸として使用していた。出入り口はN君の部屋と同じ引き戸であった。

−3−

N家の家族構成の紹介がまだであった。N君は一人っ子である。両親とN君、それとN君の部屋に同居人が一人いた、実はその同居人は事件当日N君の部屋に一緒にいたはずなのであるが、事件後、姿が見えない。

鑑識の結果も含め、改めて事件の詳細を振り返ろう。

鑑識の結果、死亡推定時間は9時から11時である、何しろ遺体が消えたので正確な死亡時間を推定することはできない。この時間は朝食を食べ終わってから、両親が遺体を発見するまでの時間である。朝食は同居人も含め4人で取った、その時に特に変わった様子はなく、いつもの日曜日と同じであった。(言い忘れたが本日は日曜日で学校も父親の勤める会社も休みで家族全員が家にいた)

鑑識からひとつ奇妙な報告があった。それは死因である、胸から腹にかけて、真っ赤になるほどの出血は確かにN君のものであるが、それは死亡してから切りつけられたもので、死因は打撲であるという。司法解剖は遺体が無いのでできないが、ほぼ間違いないという事である。相当大きく重いもので頭部を強打した、それが死因という事であった。

朝食後、すぐにN君と同居人の二人は二階に上がった。それが午前9時。その後二人は2階のN君の部屋で過ごし(た、はずである)午前11時に母親が呼びに行った時には、N君は既に死亡しており、同居人の姿はなかった。

11時20分ごろ警察が到着し、捜査が始まったが、11時50分ごろに忽然と遺体が消えたのである。

警察は犯人を同居人と目星をつけ捜査を開始した。しかし、不可解な点がいくつかあった。

まず、殺害現場である部屋である。完全に密室状態、引き戸の固定の仕方からして密室を故意に作り上げてある。内側から引き戸が開かないように引き戸の敷居部分の上下に2本ずつ釘を打ち付け、さらに引き戸自体と引き戸の外枠とを固定するように、これも上下に5本ずつ斜めに釘で打ち付けてあった。その上接着剤で隙間を埋めてあったのである。あとで分かった事だが窓枠も接着剤と釘で固定してあった、ただしこの作業の途中でN君の母親がN君を呼びに来たとみられ、釘が一本打ち付ける途中の状態で残っていた。

次に遺体の消失である。絶対に誰も部屋には侵入しておらず、刑事2名が両親と一緒に1階に下り、警官2名が部屋の出入り口、鑑識2名が部屋の中にいた。警官は部屋に背中を向ける形で立っていたので、部屋の中は監視していない、鑑識2名は部屋の中にいたが、窓枠と机の指紋採取をしていたので、遺体を凝視していたわけではないが、部屋に誰か侵入してくれば当然分かるはずだし、ましてや遺体を運び出す事をどの様に行なったのか皆目不明であった。この時点でも窓枠は接着剤を釘で固定されたままであった。

あらゆる可能性が検討された。まず、どうやって犯人が現場から逃亡したか、犯行がN君の部屋で行なわれたか、別のところで殺害し遺体を持ち込んだか、どちらにしても、どういう方法でこの密室から逃亡できたか。畳の部屋なので床は全て畳張りである、しかし畳をあげるとそこは板張りであり何処にも板を剥がした後などなかった。天井はどうだろう、天井は板張りである。中央に太い梁があり、それぞれその梁から細い梁が左右に6本ずつ通っていた、その梁に支えられる形で合計12枚の合板で天井は作られていた。北東の隅に穴があり、その穴をふさぐ形で正方形の板が天井裏から乗せてあり、その板を外して屋根裏に入る事ができる構造になっていた。しかし、屋根裏を通った形跡は全くなく、屋根裏を使った事は有り得ないと断定された。

次に遺体をどのように持ち去ったか、である。これも犯人が密室からどうやって逃亡したのか、と同様に床、天井と検討したが、当然同じ部屋なので、不可能に思われた。しかもこちらは少なくとも部屋の中の2名と唯一の出入り口である壊された引き戸の前の2名に見つからない様に遺体を運び出さなければならない。可能性を検討することもできない有り様だった。

刑事たちは手も足も出ない状態だった。

一人の刑事が言った。「その同居人を捕まえて、話を聞くしかないな」「お手上げだ」

「しかし・・・」もう一人の刑事が言った「自供だけでは、刑を問えませんよ、状況証拠が必要です」

「確かにな・・・」「困った・・・」

刑事の会話を部屋の外で聞いていた、警官の一人が話しに割り込んできた。

「良いですか?ちょっとお耳に入れておきたい事がありまして・・・」

「何だ」刑事は、警官は警備だけしていれば良い、とでも言いたげな口調で答えた。

「実は・・・」

「同居人って・・・・・なんですよ」

「何?あの・・・・・なのか?、バカバカしい。でもそうだとすると何故、N君を殺害した?」

「そうなんですよ、それがどうしても分からない」

−4−

「何故、引力発生装置が故障したの?」同居人は一人呟いた。

ご存知通り、全ての物質には相互に引き合う力が働いている。それが万有引力である。「木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見した」のはニュートンであるが、地球と月にも万有引力は働いている、地球に月が落ちてこないのは、地球の周りを回っている月の遠心力のおかげである。彼の手はその引力を自由に制御し物を掴まずに持ち上げたり(掴まないので持つという表現は正しくないが)運んだりできるのである。

彼の手は球形である、引力発生装置を制御し球形のあらゆる個所に自分の目的とする道具を自由にくっ付けて取り出したり持ち運んだり、自分の意志で自由にできるのである。一度に沢山のものに触れても、自分が持ちたいものはこれと考えれば、球形の手にはそれ以外のものがくっ付かずに必要なものだけがくっ付くのである。

しかしその日はその制御ができず、N君の宿題の手助けのために、ある「軽くて柔らかい道具」を取り出そうとしたのに一緒に「他の道具」がくっ付いてきてしまった「その道具」は重くて大きい。いつもはそれを取り出そうと意識しているので、周りに注意して取り出すのであるが今回は勝手にくっ付いてきた。勢いまかせて取り出したので「重くて大きな道具」がN君を目掛け円を描くように落下し、N君の頭を強打した。

一瞬の出来事だった。一見「重くて大きな道具」の表面は木製のようだが、実は特殊金属でできており、その道具の機能を働かせるための制御装置が外枠部分に内蔵されていた。その機能とは時空間を歪ませて、遠く離れた地点とその道具を設置した地点間とを連続した空間とするものであり、そのため強力な電磁場を生成する必要があった。その道具の重量は100kg以上あった。

その「重くて大きな道具」で頭を強打した、N君は頭蓋骨陥没、頚髄損傷で、ほぼ即死の状態であった。こうなるとこの同居人はパニック状態に陥る、自分自身で制御ができなくなるのである。まず、死因の「頭蓋骨陥没、頚髄損傷」を隠すため、ナイフでN君の胸、腹を切った(しかしさすがにあまり深く切ることはできなかったようである)。次に遺体を移動させ、扉を釘と接着剤で固定した。何故固定したのか?多分この答えは同居人本人も持ち合わせていないだろう。答えたとしても「パニック状態で何をしたのかも覚えていない」ぐらいの返答だろう。その後、外に出るための窓をも接着剤と釘で固定した。もっとも窓の釘を打ち付けている途中で母親のN君を呼ぶ声が聞こえたので途中やりで机の引出しを開け「タイムマシン」で別の時代に移動した。

数ヶ月間、同居人は色々な時代を彷徨い、やっと気分を落ち着けることができた。そして、自分の時代に戻り(この場合戻るのではなく実際には未来に行くという表現が正しい)手の制御装置を修理した後、事件直後の現場に行き、「透明マント」と「スモールライト」を使って、遺体を運び出したというわけである。

その後も彼の苦悩は続く、読者の中にはもう少し事件(事故)の起きる直前までタイムマシンで戻って引力発生装置の制御機能の直った手で「軽くて柔らかい道具」をN君に渡せば何も起こらずに済むのにとお思いの賢者もいらっしゃると想像する。確かにその通りである、しかしその行為は「時間のパラドックス」を引き起こすため、タイムトラベラーにとって絶対やってはいけない行為なのである。

最後に「軽くて柔らかい道具」を【翻訳こんにゃく】と言い「重くて大きな道具」が【どこでもドア】、被害者N君の名が【のび太】であることをお伝えしてこのお話を終わることとする。


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