完全密室殺人事件?!

創作劇場〜1〜(3/4)

【今回のコラムはフィクションです】
第1弾は毎週木曜or金曜にUPされます−全四章−(予定)

前回(第二章)分はこちら http://d.hatena.ne.jp/tsurinews/20040819

−3−

N家の家族構成の紹介がまだであった。N君は一人っ子である。両親とN君、それとN君の部屋に同居人が一人いた、実はその同居人は事件当日N君の部屋に一緒にいたはずなのであるが、事件後、姿が見えない。

鑑識の結果も含め、改めて事件の詳細を振り返ろう。

鑑識の結果、死亡推定時間は9時から11時である、何しろ遺体が消えたので正確な死亡時間を推定することはできない。この時間は朝食を食べ終わってから、両親が遺体を発見するまでの時間である。朝食は同居人も含め4人で取った、その時に特に変わった様子はなく、いつもの日曜日と同じであった。(言い忘れたが本日は日曜日で学校も父親の勤める会社も休みで家族全員が家にいた)

鑑識からひとつ奇妙な報告があった。それは死因である、胸から腹にかけて、真っ赤になるほどの出血は確かにN君のものであるが、それは死亡してから切りつけられたもので、死因は打撲であるという。司法解剖は遺体が無いのでできないが、ほぼ間違いないという事である。相当大きく重いもので頭部を強打した、それが死因という事であった。

朝食後、すぐにN君と同居人の二人は二階に上がった。それが午前9時。その後二人は2階のN君の部屋で過ごし(た、はずである)午前11時に母親が呼びに行った時には、N君は既に死亡しており、同居人の姿はなかった。

11時20分ごろ警察が到着し、捜査が始まったが、11時50分ごろに忽然と遺体が消えたのである。

警察は犯人を同居人と目星をつけ捜査を開始した。しかし、不可解な点がいくつかあった。
まず、殺害現場である部屋である。完全に密室状態、引き戸の固定の仕方からして密室を故意に作り上げてある。内側から引き戸が開かないように引き戸の敷居部分の上下に2本ずつ釘を打ち付け、さらに引き戸自体と引き戸の外枠とを固定するように、これも上下に5本ずつ斜めに釘で打ち付けてあった。その上接着剤で隙間を埋めてあったのである。あとで分かった事だが窓枠も接着剤と釘で固定してあった、ただしこの作業の途中でN君の母親がN君を呼びに来たとみられ、釘が一本打ち付ける途中の状態で残っていた。

次に遺体の消失である。絶対に誰も部屋には侵入しておらず、刑事2名が両親と一緒に1階に下り、警官2名が部屋の出入り口、鑑識2名が部屋の中にいた。警官は部屋に背中を向ける形で立っていたので、部屋の中は監視していない、鑑識2名は部屋の中にいたが、窓枠と机の指紋採取をしていたので、遺体を凝視していたわけではないが、部屋に誰か侵入してくれば当然分かるはずだし、ましてや遺体を運び出す事をどの様に行なったのか皆目不明であった。この時点でも窓枠は接着剤を釘で固定されたままであった。

あらゆる可能性が検討された。まず、どうやって犯人が現場から逃亡したか、犯行がN君の部屋で行なわれたか、別のところで殺害し遺体を持ち込んだか、どちらにしても、どういう方法でこの密室から逃亡できたか。畳の部屋なので床は全て畳張りである、しかし畳をあげるとそこは板張りであり何処にも板を剥がした後などなかった。天井はどうだろう、天井は板張りである。中央に太い梁があり、それぞれその梁から細い梁が左右に6本ずつ通っていた、その梁に支えられる形で合計12枚の合板で天井は作られていた。北東の隅に穴があり、その穴をふさぐ形で正方形の板が天井裏から乗せてあり、その板を外して屋根裏に入る事ができる構造になっていた。しかし、屋根裏を通った形跡は全くなく、屋根裏を使った事は有り得ないと断定された。

次に遺体をどのように持ち去ったか、である。これも犯人が密室からどうやって逃亡したのか、と同様に床、天井と検討したが、当然同じ部屋なので、不可能に思われた。しかもこちらは少なくとも部屋の中の2名と唯一の出入り口である壊された引き戸の前の2名に見つからない様に遺体を運び出さなければならない。可能性を検討することもできない有り様だった。

刑事たちは手も足も出ない状態だった。
一人の刑事が言った。「その同居人を捕まえて、話を聞くしかないな」「お手上げだ」
「しかし・・・」もう一人の刑事が言った「自供だけでは、刑を問えませんよ、状況証拠が必要です」
「確かにな・・・」「困った・・・」

刑事の会話を部屋の外で聞いていた、警官の一人が話しに割り込んできた。
「良いですか?ちょっとお耳に入れておきたい事がありまして・・・」
「何だ」刑事は、警官は警備だけしていれば良い、とでも言いたげな口調で答えた。
「実は・・・」
「同居人って・・・・・なんですよ」

「何?あの・・・・・なのか?、バカバカしい。でもそうだとすると何故、N君を殺害した?」
「そうなんですよ、それがどうしても分からない」

〜来週につづく〜 http://d.hatena.ne.jp/tsurinews/20040904