とりあえずビール

店先に懸けられた暖簾を手で払い男はその店に入った。店を入って左手に数人程度が座れるだろうか小さなカウンタがありその奥が厨房になっていた。手ぬぐいを頭に巻いた小太りの男が威勢良く「いらっしゃい」と声をあげた。

右手には4人から6人が掛かられるテーブル席が合計8個あった。その奥が座敷になっているようで中央の柱を挟んで障子4枚ずつあり一番左端の障子を除き全て閉まっていた。

アルバイトだろうか、大学生風の女性が男に近づき「おひとりですか?」と声を掛けた。「あ、いや○○商事ですけど」と口にしてから「S氏で予約してあるかな?」と今回の宴会の幹事の名前を告げた。

「S様ですね、こちらで御座います」と告げ左手で先ほどの障子で仕切られた場所を示した。小走りに進み、中央にある柱の右側の障子を開けた。

「あっ部長、お待ちしてました。『そろそろ始めようか』って今言っていたところなんですよ」障子を開けたすぐの場所に座っていたS氏が声を掛けた。

で、S氏はさっきのアルバイトの女性店員に言った「とりあえずビール10本持ってきて〜」。

という風景が今までの居酒屋での宴会の流れであった。しかし最近は違うらしい、幹事は(がいる場合は)みんなに飲み物を聞いて回るのである。生ビールあり、チューハイあり、カクテルあり、ソフトドリンクあり、である。とりあえずビールで乾杯は無くなったようである。